「すまない、予定より遅れた」
書類をかかえた女性が入ると、そこには柔軟運動をしている川内の姿があった。
「いいよいいよー。ちょうど体動かしてたところだったし」
あれから川内はすぐに病院に運び込まれ精密検査を受けることとなった。川内の受けた傷は想像以上のものであり、特に女性器の損傷がひどく、名目上リハビリとされている部分も、実はその部分の治療にあてられていた。だが一番重症だったのは彼女の心であり、しばらくは異性が集まる部屋に近づくと体が震え足が止まってしまうほどのトラウマになっていた。
それでも仲間たちの懸命なケアと励まし。そして彼女自身の強さで少しずつ回復していき、一ヶ月で実戦訓練に復帰できるほどにまで回復していた。
「それで、あの子たちのことだけど・・・」
「ああ、怪我の方はもう完治していつでも退院できるんだが・・・問題は心の方でな。まだ集団生活が出来る状態では無いとのことで、専門の病院の方に移されて治療を続けることになったそうだ。」
少女たちは生傷こそあったものの、入院が必要になるほどの外傷はなかった。だが自分たちを守ってくれた川内を陵辱し、ついには自分たちの意思で彼女を壊そうとした。その記憶と手に残る感覚は彼女たちの心に深い闇を落としていた。
「・・・そっか。なら私も覚悟決めないとね。案内してくれる?」
案内された部屋の前で川内は呼吸を落ち着け、自分の頬を叩いた。まだあのころのことを思い出すと腕の震えが止まらなくなるが、向き合わなければならない問題だと改めて覚悟を決めた。
「ひさしぶり」
「・・・あ・・・・・っ」
「・・・えーっとさ。それで「・・・なさい・・・」」
「・・・ごめんなさい・・ごめん・・な・・さぃ・・・っ」
「・・・・・・・」
川内は泣きじゃくる少女の前で膝をまげ同じ目線に立つと、少女の方をつかみ目を見据えた
「 聞いて 」
「っ・・・・」
「確かにあそこであったことはとてもつらいものだった。そして私が皆にされたことはどうあっても消えることじゃない。」
「でもね、だからといってあなたたちに不幸になって欲しいなんてかけらも思わない。私が望むのはね、あなたたちが羨むくらい頑張って、幸せになってくれることなの。ああ、この子たちを守ってよかったって思えるくらい幸せになってほしい。」
「・・・・・・・」
「頑張って勉強して、立派にお仕事して、いい旦那さんとこどもたちに囲まれて、こんなに幸せになれたよって自慢してくれたら、私はとてもうれしいなって思うんだ」
「あ、でもバリバリのキャリアウーマンになってすっごい偉くなってて、いや、三ツ星レストランのシェフに・・・えーと・・・あーっもーー!!!うん!」
「と に か く!!いいね!」
「へっ・・え・・・と・・」
「 返事!! 」
「は、はい!?」
「よし!・・・・うん・・・とにかく・・・ね」
「あなたたちはあの地獄を生き抜いた。この先もつらいことはたくさんあると思うけど、乗り越えられる。わたしが保証する」
「・・・・・はい・・っ」
「いい返事だったよ。それじゃ・・・・頑張りなさい」
その言葉ともに川内は少女を優しく抱きしめた。抱きしめられた少女は静かに目を閉じ、その温かさと優しさを胸に刻むように川内の背中に手を回した。その時間は1分程度のものだったが、少女にとってずっと忘れられない大切な時間だった、と後に語っている。
「これで最後の子だったが・・・・・決着はつけられたか?」
「うん、ありがとう・・・・私ももっとがんばらなきゃね」
この後川内は驚異的な回復力と努力で半年で前線に復帰。仲間からももう少し休むことも薦められたが、彼女はそれを固辞した。今はリーダーとして多くの後輩たちを見守っている。
少女たちは保護施設にて基礎教育と社会生活への復帰訓練を受けた後、里親たちに引き取られ学校に通っている。送られてきた手紙に「おねえさんのように皆を守れるかっこいい女性になる」と書かれていて、それを仲間にはやし立てられた。
今日はそんな少女たちと久しぶりに会える日。最初にどんな言葉をかけようか、身長はどのくらい伸びているか。そんなたくさんの期待と不安をかかえ、わたしは彼女たちに会うために部屋を出た。